頸部痛(首の痛み)
頸部痛は、スマートフォンやパソコンが普及した現代社会においては、一般的によく認められる症状の一つです。
肩や腕に広がる症状を伴う頸部痛の場合、神経根や脊髄への圧迫が原因となっている場合があります。
日本においては、肩甲骨周囲の痛みや違和感は肩こりとして捉えられている場合があります。
また頸部痛は、痛みに伴い日常生活への影響をきたすことで、社会的および職業的な制約を生じ、生活の質にも影響するようになります。
そのため頸部痛は、公衆衛生上でも大きな課題になっています。
特徴として以下の広範囲のものが挙げられます。
①一般的に再発することが多い。
②時間経過とともに進行するか、特定の職業、スポーツや交通事故の外傷後に発症することが多い。
③関連した症状としては、頭痛、めまい、睡眠障害、首から肩および腕に広がる痛みなどが生じることがある。
④関連して首の動かしにくさ、首から肩・腕の筋力低下や感覚障害などが生じることがある。
⑤外傷後に発生した頸部痛は、強い疼痛、側頭部や顎の症状、認知および感情障害など広範囲にわたる症状が関連して起こることがある。
⑥不安や鬱などの心理・社会的な要因を合併している場合も多く、状態の進行やより重症化することが示唆される。
2008年の米国理学療法協会による頸部痛臨床診療ガイドラインは以下の4つに分類しています。
①運動機能障害を伴う頸部痛
②運動協調機能障害を伴う頸部痛
③頭痛を伴う頸部痛
④放散痛を伴う頸部痛
頸部痛とそれに伴う障害は、よくみられる症状であり、年間に一般人口の30~50%に影響を与えています。
そして、1 年間に一般人口の2~11%、労働人口の11~14%が頸部痛のために日常生活が制限されています。
また 1 年間の頸部痛の発生率は10~20%であり、時点有病率は一般人口の約 15%であるとの報告もあります。
そのため、日常生活だけでなく経済活動に対する負の影響が認められます。
発症年齢は、中年世代(平均年齢49歳)に多く、性別では女性に多いと報告されています。
また、頸部痛は緩解した場合でも再発が多いことが知られています。
頸部痛発症の絶対的な危険因子としては性別(女性に多い)、年齢(高齢者に多い)があり、予防可能な因子としては、長時間にわたるデスクワークや運転など頸部に負荷のかかる業務、喫煙、社会的サ ポート不足、過重な仕事量、頸部もしくは腰部機能障害の既往などが挙げられます。
職業としては、医療職や事務職などパソコンを扱う職業に多く、そのうち女性と頸部痛の既往のある人が、頸部痛再発の強い危険因子であると報告されています。
労働者における頸部痛に関連する危険因子は、年齢、筋骨格系痛の既往、高度な定量的仕事の要求、職場での低い社会的な援助、不安定な仕事、低い身体能力、パソコンによる仕事環境の劣悪性などがあります。
頸部痛の評価は、まずRedFlagsの有無についてカウンセリングや検査で行うことから始めます。
具体的には、外傷性の骨折や脱臼、脊髄の悪性腫瘍、化膿性脊椎炎、外傷後などの重篤な頸髄症による脊髄刺激症 状が認められる場合、外傷などにより上位の靱帯損傷が疑われる場合などであり、理学療法は原則として禁忌となるため、その場合は医療機関をご紹介します。
また、慢性の心理的および社会的予測因子であるYellowFlags、痛みや健康の仕事への影響についての認識であるBlueFlags、仕事の不適応など回復に対する障害であるBlackFlagsは、頸部痛における発症や病状の進行に影響を及ぼすため、注意深くカウンセリングを行っております。
RedFlags がない場合は、頸部痛が神経根症状なのかどうかを評価します。
評価方法には、スパーリングテストやニューロダイナミックテスト(neurodynamics tests)などの症状を誘発する末梢神経障害に関連するテストを行います。
そのほか関節可動域テスト、筋力テスト、感覚テスト、腱反射テスト、Neck Disability Index(NDI)や SF-36、Patient-Specific Functional Scale(PSFS)などの自己記入形式の質問票を用いた日常生活や生活の質の検査、必要に応じて心理社会的な検査を必要に応じて行います。
神経根症状と判断された場合でも、自然経過で何%かが改善することもありますが、自然経過で改善しない場合は、関節可動域改善、筋力や筋持久力増強などの運動療法、モビリゼーション、マニピュレーション、神経モビリゼーションなどを行います。
神経根症状がない場合においても、痛み、機能テストやJOAスコア、日常生活活動テストなどを必要に応じて行います。
施術としては、関節可動域改善などの運動療法、深部筋トレーニング、姿勢トレーニング、モーターコントロールトレーニング、モビリゼーション、マニピュレーション、生活環境調整やセルフケア指導、心理学的介入などの包括的なプログラムを行います。
また、当院ではCentralizationの概念に基づいた施術やエクササイズも取り入れています。
centralizationとは特定の方向に動ける限界まで繰り返し動かすことで手指などの末端にあった症状が徐々に首の中心に移動していき、最終的には消失するという現象です。
約 55%の方にみられる反応で、最もcentralization がみられやすい方向は首を反らす方向だと報告されています。
centralizationが起こる方向に繰り返し運動することは、短期的には首だけではなく、頭痛や腕の痛みも弱める効果があるとする研究結果があります。